リリムジカ通信 vol.6 ~「その人らしい生き方を支えるケア」

リリムジカ通信 Vol.5でインタビューした清水祐壱さんが所属する東京都足立区の特別養護老人ホーム、グレイスホーム。こちらではあと2人の職員さんが音楽療法の受け入れ担当をしています。今回インタビューした松崎八重子さんはそのうちの1人。松崎さんも清水さんと同じく2010年12月の導入時から音楽療法をご一緒しています。松崎さんが目指すケアとは?音楽療法で感じたこととは?お話を伺ってきました。

 

【管】 松崎さんが介護のお仕事を始めてから今に至る経緯を教えていただけますか?

学校卒業後、最初は信用金庫でOLをしていました。出産を機に信用金庫を退職、子育てがひと段落してからは「また仕事がしたい」と考えていました。そのとき選択肢に上がったのが介護の仕事です。「自分自身が一生続けられる仕事」というイメージでした。ヘルパー2級の資格を取ってからは、特別養護老人ホームで働いています。グレイスホームに入職してからは、4年半になりました。

在宅ではなく施設で働こうと思ったのには2つ理由があります。1つは色々な方とご一緒できると思ったから。もう1つは食事介助やトランス等、専門的な技術を身につけやすいと思ったからです。

ちなみに仕事を始めたときに「5年後にケアマネジャーの資格を取ろう」と決めており、幸いにも去年合格することができました。また、グループホームに勤める友人から認知症ケア専門士の資格について教えてもらいました。今年認定試験を受けているところです。

 

● 松崎さんの努力、伝わってきます。日頃のお仕事ではどんなことを心がけていますか?

特に心がけていることは2つあります。1つは利用者様に対し平等に接することです。訴えのある方、ない方、自立度の高い方、そうでない方。お一人お一人の気持ちや状況に合わせて、適切だと考えられる接し方やケアをしようと心がけています。ご自身から訴えをするのが難しくなった方や遠慮をされがちな方に対しては、表情などから思いを汲み取りお声がけをします。観察力が大切だと思います。

もう1つは施設の中で、できる限りその方らしい生活を支えるということです。たとえば食べることがお好きな方でしたら外食にお連れする。歌がお好きな方だったらカラオケなど歌をうたえる機会をつくる。最近の中で思い出深いのは、利用者様と一緒に買い物をしたときです。月に2回、利用者様から買い物の注文をいただきます。ただ、その内容は大体決まっています。海苔、つくだに、せんべい・・・。あるとき時間をつくって利用者様と一緒に近所のスーパーに行きました。するとその利用者様が「あれもほしいな、これもほしいな。どれにしようかな。」と言いながら、楽しそうに商品を選んでいらっしゃいました。普段とは違う環境で、少しでも利用者様自身の希望や想いをかなえることができたのではないかと思います。

 

● 音楽療法については、元々どのようなイメージを持っていらっしゃいましたか?

音楽療法については資格のテキストで読んだことがありました。歌をうたったり楽器を演奏したりすることで、コミュニケーションの円滑化や認知症の症状改善、QOLの向上を図るというイメージでした。実際に音楽療法のプログラムをみて、内容ひとつひとつに意図があるのが奥深いと思いました。なぜ最後の曲を毎回同じにしているのか、その回のセッションで男性に利用者様にトライアングルをお渡したのはなぜなのか、といった点です。

 

● 音楽療法があって良かったと感じる点は何ですか?

音楽療法セッション中の松崎さん

利用者様が歌をうたったり楽器にふれたりする機会をつくれた点です。ゲーム等のレクリエーションはありますが、歌う、楽器にふれていただくことは、私たちにはなかなかできません。また、利用者様と音楽療法士さんとの会話で利用者様の新しい一面を知ることもあります。「四季の中では春が好き」とか「カキ氷のシロップはイチゴ味が好き」とか。比較的自立度が高い方の場合、訴えをお聞きする程度の関係になってしまいがちですが、音楽療法を行うことでその方を様々な角度から知っていくことができます。

 

● セッションの前後で気を配っていることはありますか?

大きくわけて3つあります。1つめは相談員や医務との連携です。セッションに関する連絡は、その日の朝に相談員がつないでくれます。プログラムの内容や、実習生の参加、見学者のことなど。利用者様がその日のセッションに参加するかしないかの判断をリーダーの看護師に仰ぐことがあります。「前日の夜から咳き込んでいます。風邪が蔓延するといけないので残念ですが今日は不参加にしましょう。」となるときもあります。セッションの環境をつくったり、利用者様にベストな状態でセッションに参加いただけるように、情報共有や連携を大切にしています。

2つめは自分がセッションに集中し、一緒に楽しめる環境をつくることです。音楽療法を担当する日は早番で仕事に入っています。午前中のセッションは10時15分から。鈴木さんが来るころには自分がセッションに専念できるよう、他の仕事を済ませるようにしています。具体的には、利用者様の状態の確認などですね。私自身が心置きなくセッションに参加できる環境を自分でつくり、セッションを楽しむことが大切だと考えています。

3つめはスタッフ間の情報共有です。当ホームでは3人の職員で交替しながら音楽療法の担当をしています。3人はそれぞれ担当フロアが違うので、時間をとって会議をするのは難しいです。そのため情報共有にはメールを活用しています。セッションが終わるとその日の担当職員が、席の配置や楽器の使い方、新しく参加された方のご様子などを相談員と他の担当職員にメールします。共有された情報は次回のセッションに活かしています。メールでの情報共有は音楽療法の導入以来ずっと続けています。

 

● 職員さんが一緒になって音楽療法をつくっている。この雰囲気はセッション外の努力からも生まれていたのですね。最後にこれから音楽療法の時間をどのように活かしていきたいか教えていただけますか?

セッションに参加される利用者様が楽しんでいただけるよう、音楽療法士さんと一緒に目標や方向性を話し合っていきたいと思います。敬老会などのイベントにも、日頃のセッションをつなげられたら良いなと考えています。

 

松崎さん、今日はありがとうございました!

 

※表示されている氏名、役職はインタビュー当時のものです。

(2011年12月07日)